四重極LC-MS/MSによる農薬の分析

(ジャスコインタナショナル株式会社 応用研究室)古荘早苗、金田房子、垣見英登

四重極LC-MS/MS装置で農薬10成分の同時定量分析を行った。標品による検出下限領域での再現性(n=10)の確認と、50種農薬を市販フルーツジュースに添加した時の回収実験を行った。

【はじめに】

環境や食品中などの農薬を定量するために、選択性の高い四重極LC-MS/MS装置のMRM(Multiple Reaction Monitoring)モード用いることは大変有効である。MRMは、一段目の四重極でプリカーサイオンのみを通し、そのイオンを次のコリジョンセルで開裂させ、生成した化合物に特異的なプロダクトイオンのみを二段目の四重極でモニターする方法である(Fig 1.)。この方法では、LCの保持時間情報以外に、化合物の特異的な質量情報で同定が可能となる。また、この質量情報を利用することで実試料中の夾雑成分から目的化合物を質量数で分離することができる。そこで、この方法を使い、検出下限領域濃度での再現性確認と市販フルーツジュースに50種農薬を添加した時の回収実験を行った。

MRM

Fig1Multiple Reaction Monitoring(MRM)使用時の四重極MS/MSの概略図

【実験と結果】

- HPLC条件-

HPLC装置 Agilent1100 (アジレントテクノロジー)
カラム Inertsil ODS-3 (2.1 x 150mm)(GLサイエンス)
移動相 A ; 5mM酢酸アンモニウム水溶液
B ; メタノール
グラジエント B%(min)=40(0) → 40(3) → 60(3.5) → 99(20) → 99(32)
流速 0.2mL/min
インジェクション量 5uL
カラムオーブン温度 40℃

-MS条件-

質量分析装置 Quattro micro API (Micromass, UK)
イオン化モード エレクトロスプレー正イオンモード(ESI+)
イオン源温度 80℃
デソルベーション温度 150℃

Table 1. 対象化合物と測定条件

Compound

MRM
モニターイオン

測定時間(分)

コーン
電圧 V

コリジョン
電圧 eV

Carbaryl
m/z 202.23 > 145.08
11 〜 14
15
10
Fenobucarb m/z 208.25 > 94.92
14 〜 15.9
20
12
Mepronil m/z 270.23 > 119.03
15.9 〜 17.7
25
25
Phenthoate m/z 321 > 78.9
17.7 〜 20.1
15
42
Diazinon m/z 305.2 > 169.2
17.7 〜 20.1
30
28
EPN m/z 324 > 157
20.1 〜 21.3
20
22
Imibenconazole m/z 411.1 > 125.1
21.2 〜 22.4
30
28
Chlorpyrifos m/z 349.9 > 96.9
22.3 〜 23.6
20
30
Pendimethalin m/z 282.2 > 212.1
22.3 〜 23.6
15
12

Fenvalerate

m/z 437.1 > 167.1
23.5 〜 26
20
18

各化合物の標品を混合し、メタノールで希釈したものを測定に用いた。得られたクロマトグラムをFig 2. に示す。それぞれの検出下限領域で繰り返し測定した時のC.V.値(n=10)とS/N比の平均値を以下に示す(Table 2.)。

Chromatogram

Fig2農薬標品混合物のMRMクロマトグラム(10ppb)

Table 2. Quattro micro測定時の農薬類のC.V.値とS/N比

化合物
濃度
(ppb)
S/N比
C.V値
(%)
Carbaryl
0.1
41.8 2.46
0.2 - 2.74
0.5 - 1.41
Fenobucarb 0.1 30.1 1.95
0.2 - 2.83
0.5 - 2.42
Mepronil 0.1 50.2 1.36
0.2 - 0.97
0.5 - 1.13
Phenthoate 0.1 7.8 5.46
0.2 - 2.42
0.5 - 3.29
Diazinon 0.2 4.9 14.24
0.5 - 5.12
1.0 - 2.74
化合物
濃度
(ppb)
S/N比
C.V値
(%)
EPN 0.2 LOD 8.21
0.5 8.6 5.10
1.0 - 3.10
Imibenconazole 0.1 8.0 6.0
0.2 - 2.42
0.5 - 1.68
Chlorpyrifos 0.1 LOD 9.91
0.2 9.7 6.12
0.5 - 1.92
Pendimethalin 0.1 8.6 5.31
0.2 - 6.15
0.5 - 2.37
Fenvalerate 1.0 4.0 7.76
5.0 - 3.45
10.0 - 2.42

(LOD=Limited of Detection S/N=3以下でピークが検出されていると判断できたもの)

フェンバレレートのみ検出下限が1.0ppbとなったが、その他は0.1〜0.2ppbと良好な結果が得られた。得られた検量線の内の一つをFig 3.に示す。

Calibration

Fig3クロルピリホスの検量線(0.1〜250ppb)

市販フルーツジュースに、50種農薬の混合液である農薬混合標準液22(関東化学)を1ppm相当になるように添加したものを実試料とした。これをメタノールで10倍希釈し、0.45?mのメンブランフィルターを用いて濾過したものを注入した。定量の結果と使用した検量線範囲を以下に示す(Table 3)。

Table 3. 農薬添加市販フルーツジュースの測定結果

化合物
使用した検量線の
濃度範囲 (ppb)
相関係数
定量値
(100ppb相当)
Carbaryl 0.1〜100 0.9989 80.89
Fenobucarb 0.1〜250 0.9998 83.73
Mepronil 0.1〜50 0.9995 72.21
Phenthoate 0.1〜100 0.9992 83.98
Diazinon 0.1〜250 0.9998 89.76
EPN 0.2〜250 0.9992 85.81
Imibenconazole 0.1〜250 0.9996 69.1
Chlorpyrifos 0.1〜250 0.9999 89.78
Pendimethalin 0.1〜250 0.9999 90.81
Fenvalerate 1.0〜250 0.9997 80.51

実試料はフィルターをかけただけの簡単な前処理のみとした。定量値からも分かる通り、この処理では平均で約80%の回収率となった。

【まとめ】

四重極LC-MS/MS装置を使い農薬の多成分同時測定が感度良く測定できることがわかった。実試料の分析においても、夾雑成分は質量分析計の選択性で排除できた。全分析時間は約50時間であったが、今回用いたシステムでは感度の低下は見られず、長時間安定した測定が可能であった。


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